困っている人に支援を届けるという行為は、これまでもさまざまな領域で行われてきました。
医療系では、往診、訪問診療や看護師、作業療法士による訪問看護、精神保健福祉士による訪問支援、多職種チームのACT、福祉領域では計画相談や基幹相談支援センターでの訪問活動などが代表的です。これらは、アセスメントや診断に基づいて支援計画を立てて活動を展開します。
保健所の保健師や保健所医師の訪問活動は、住人から依頼できるアウトリーチとして認知されています。
ただ、医療・福祉・保健の枠組みでは、支援につながらない方が多く存在します。例えば、虐待や貧困で行き詰まっている方、非精神病性ひきこもりの状態の方、ホームレスの方、非行に居場所を求める若者、頼れる人がない母子家庭など、こうした社会的に孤立した方々は、助けを求める力を奪われたまま、困窮が慢性化しています。その背景には教育・経済・医療など複合的な課題がしばしば混在します。こうした若者や困窮者への支援は志のある方々が全国各地で活動を開始し、その声の集約が2010年の子ども若者育成支援推進法、2013年の生活困窮者自立支援法の制定につながり、2010年から内閣府が主催するアウトリーチ(訪問支援)研修が開始されており、本領域の支援者が続々と育成されてきています。
本シンポジウムでは、医療・福祉・生活困窮・若者支援の各領域を代表する方々に御登壇いただけることとなりました。シンポジストの皆様には、ご自身の取り組みともに。日本のアウトリーチで今後必要と思われることを忌憚なくお話いただきます。また指定討論の名雪和美さんには国が掲げる「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」を視野に置きつつ、議論を深めていただく予定です。
自分の領域以外のアウトリーチを知る場はこれまで限られていました。アウトリーチの多様性を知り、明日からの支援がより拡がり、より繋がりやすいものになれればと思います。
1.問題意識
今、私たちは、時代の曲がり角に生きている。自由主義・民主主義、資本主義といった今まで普遍的と考えられていた価値観やシステムがゆらぎを見せ、あるいは重大な挑戦に直面し、どの国の社会も格差と分断の中にある。我が国も、人口減少の中で、人々の意識や地域の状況、社会経済の在り方が、大きく変容しつつある。こうした中で、今後私たちが進むべき道筋はどのようなものだろうか。
2.2040年スキーム
かかる問題意識の下に、当面の大きな節目となる2040年をターゲットイヤーとして、社会保障を中心に課題分析と対応方向(いわゆる「2040年スキーム」)を明らかにする。具体的には、 (1) 中心課題の変化 = これまでの中心課題は財政問題であったが、換わってマンパワー問題がより深刻化している状況について現状と対応方向を明らかにする。(2)残された問題 = 現在進行形の問題として、①人口減少、②財源問題を採り上げ、現状と対応方向について所見を明らかにする。
3.今後の社会を考える
以上を踏まえ、今後の社会・地域の変容について、現状と今後の課題を明らかにし、対応の方向性を探る。その上で、今後の社会を考える3つの視点として、(1)総合的な保障体系の確立、(2)地域共生社会の構築と推進、(3)国民の統合に向かう理念の構築を提示し、それぞれの論点について所見を明らかにする。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響下、対面による全国大会など機会が制限を余儀なくされており、ACTについて知る機会やチーム同士の交流を作る事が困難でした。この現状を受け、ACT部会では全国のACTに関わる方々の考えや感覚などを大切にし、「日本のACTを温める」というテーマで今年度は「ACT研修(リーダー編・中堅編・入門編)・オンライングループスーパービジョン」という企画を軸に活動してまいりました。
本企画は、その中のACT研修(入門編)に位置付けております。その為、ACTの実践者に限らず、多方面で活動されている方にも興味関心を寄せていただけるような企画です。
1、ACTプログラムの概要 ⇒ ACTチーム(利用者さんと支援チーム)がリカバリーストーリーを語る
2,登壇チーム ⇒ SAGA-ACT(佐賀県)、AI-ACT(長崎県)
“利用者”と”支援者”それぞれの視点から、ACTプログラムを通した体験から「地域で暮らす時。そこにはどんな人がいて、どんな事を考え、感じているのか・・・」そんなことを伺い知り、「日本のACTを温める」時間です。
精神科訪問看護や精神科訪問支援(以下、「アウトリーチ」と表記)のなかで、「支援者」は当事者やそのご家族と出会い、その方々のリカバリーの伴走者たるべく関係を深め、様々な活動を展開します。その出会いが支援・被支援のなかだとしても、一期一会の機会を大切にして積み重ねたなかで双方向に影響し合い、お互いに成長し合えるような唯一無二の関係を構築できるときがあります。
その一方で、税金を財源とする医療保険や福祉を基盤としたサービスを展開する際には、その活動の内容に関する科学的根拠の有無、そのサービスを実施する必要性の有無を厳しく問われます。「漫然と訪問しているだけではないか?」「そのアウトリーチは本当に必要なのか?」という声に対して、当事者やご家族に対して愚直に関係構築しながら「生きる」ことへの伴走を続けている支援者は違和感をおぼえます。
出会う 知る 知り合う 自己を見つめる 過去について深める 未来を見晴るかす
→ 卒業? 終わる? どういうこと?
→ 支援(業務)はいつか終わるかもしれないけど、関係(つながり)はつづく
→ 心の内側にあるものがゆっくり語られていくプロセスにこそ、向き合いたい
この分科会では、参加者の皆さんに投げかけをする登壇者と、フロアにいる皆さんと、「アウトリーチの終了・卒業」をテーマにして話し合います。また、フロアの方同士で語っていただき、共有しながら様々な考えを眺め、ご自分の中にどのような声が響くのか味わっていただきます。この話をしながら「アウトリーチが果たす役割」についても、深められるかもしれません。
もうひとつ。これらの話をする時に、その裏側にはいつも「支援を提供する組織の経営」を成り立たせるには、「卒業なんてさせないでサービスを提供し続けたほうがプラス」という言説がつきまといます。本当にそうなのでしょうか?…ということも考えながら、話していきましょう。
分科会3は、「アウトリーチの先達の想いを聞く」会としました。前半の1時間は各分野で経験豊富な4人の演者の方にアウトリーチの実践や想いなどを話していただきます。具体的には、各機関の理念・活動概要・大切にしていること、アウトリーチに取り組むきっかけ・動機・面白さ・やりがい、アウトリーチを行う上での悩み・苦労・難しさ、目指しているアウトリーチの将来像などを話していただく予定です。
後半の1時間はフロアからの質疑応答に加え、参加者の方からもアウトリーチへの想い、面白さ、苦労などを自由に話してもらう時間としています。演者へ質問しても、自分のアウトリーチの想いを話しても構いませんし、演者の発表を聞くだけの参加でも構いません。参加された方が自分のアウトリーチへの想いを再確認でき、「明日から頑張ろう!!」と思える時間をみんなで創れたらいいなと思っています。
多くの方の参加をお待ちしています。
昨今、利用者およびその家族による暴力事件の発生が続いている。在宅ケアの現場におけるハラスメント被害の危険性は高く、その要因として、原則1人で訪問し業務にあたること、24時間訪問巡回サービスを展開していること、利用者宅に人を攻撃するためのあらゆる道具が豊富に存在すること、小規模事業所が多く十分な安全対策を講じることが難しいことがあげられる。
利用者や家族を行為者にさせず、職員も被害者にならないために、アウトリーチにおけるハラスメント対策について、参加者とともに考えていきたい。本分科会では、職員間のパワーハラスメントについては扱わず、利用者とその家族からのハラスメントに限定する。
まずカスタマーハラスメントなどの定義、そして在宅ケア現場での暴力・ハラスメントの実態について概説する。次に暴力の価値基準のワークを通して、この問題の解決を妨げる自分自身の傾向を知る。また、事業所でのハラスメント対策の実施状況を確認する。そして、暴言やセクシュアルハラスメントのエスカレーションを防止するための対応について、ロールプレイを行う。また、暴力のKYT(危険予知訓練)を行う。
このKYTは危険(K)、予知(Y)、訓練(トレーニング)(T)を合わせた用語であり、労働災害防止のために開発され、改良を重ねてきた手法である。ステップ1では、どんな危険があるのか潜在する危険要因を発見・予知し、危険要因により引き起こされる現象を想定する。ステップ2では、重要な危険ポイントは何か、重大な危険要因と現象の絞り込みを行う。ステップ3では、自分ならこうすると具体的で実行可能な対策を考える。ステップ4では、自分たちはこうすると個々に考えた具体策から重点項目を絞り込み、チームでの行動目標を設定する。
体験参加型の内容であり、現場でハラスメント対策を実施するヒントを持ち帰っていただきたい。
この分科会ではピアスタッフによるアウトリーチ実践者の報告から、各地でどのような形でピアサポートが実践され、その価値が何なのか考えていきたい。
現在、全国各地のアウトリーチ支援ではピアスタッフが雇用されピアサポートを届けている。これからピアスタッフを雇用したいと考えている事業者も多いのではないだろうか。今回の報告者は先駆的にピアサポートを実践し続けている3人の報告者にその業務内容、そこでの葛藤や悩みなどを話してもらう。まだ前段としてピアサポート研究の第一人者である聖学院大学の相川章子氏による「アウトリーチにおけるピアサポートの価値」というテーマで相川氏の研究を通じて見えてきたピアスタッフの意義や効果について海外と日本の事例から講演していただく。
3年前から障害福祉サービス分野では新たにピアサポート加算が新設された。これにより精神障害を持ったピアスタッフが福祉事業所では雇用されることは増えていった。しかしこのピアサポート加算に関する研修が十分に開催されていない現状もあり、またピアスタッフの働き方、理念が確立されていないなど、課題も多い。
このピアサポート加算は訪問が必須の相談支援事業にも制定された。全国的にまだ相談支援事業で働くピアスタッフの数は多くない。その中で、以前から活躍していた兵庫県の彼谷氏の登壇していただき地域移行支援、自立生活援助事業でのピアスタッフの現状と育成について報告していただく。
笠原氏、高橋氏には障害福祉においてのアウトリーチの実践と訪問看護ステーションでの役割なども話していただく。
障害福祉、訪問看護に限らず、まだアウトリーチのサービスではこれからピアスタッフと専門職が協働してリカバリー志向のサービスを創造していく時代であると考える。そこにはピアサポートの要素は必ず必要になるだろう。
この分科会で登壇者、参加者共にその理解が進めば幸いである。
様々な法制度や領域において、目の前の当事者その人それぞれのリカバリーを大切にしたアウトリーチ支援が熱心に実践されています。その先で私たちは当事者と共に、暮らす地域のコミュニティーや社会環境と出会うことになります。
その環境と当事者のあいだには様々な障壁がまだまだ存在しており、当事者と共にそれらを乗り越え、近隣の人々と同じいち市民として、ひとりの生活者としてつながりあうために一体どのようなアウトリーチをすることができるのでしょうか。
地域づくり部会では、そういった地域そのものへのアウトリーチ、つまり専門職や支援者が積極的に当事者を含めた地域そのものにかかわり、誰もがお互いに安心できるケアや尊厳のある暮らしを当事者、地域住民、コミュニティー等と一緒に作っていくこと、もしくはそのプロセスが「地域づくり」であると考えています。
今回の分科会では居住支援を取り上げます。居住支援は近年、「居住支援法人」の広がりと共に、地域移行や地域ケアの重要な要素として語られることが多くなってきました。長年居住支援のトップランナーとして岡山での実践を続けてこられた阪井ひとみさんにご登壇いただき、居住支援の実態を学び、当事者が生活者として地域で暮らすことを支える居住支援とはどういうものなのか等の考えを深めます。
また、居住支援の学びを通じて、会場の皆さんが地域づくりとアウトリーチについて対話できる機会にできたらと思っています。奮ってご参加下さい。
アウトリーチ支援の難しさの一つに、その方を知っている人が担当スタッフのみで、支援場所がご自宅であるが故に、実際の支援や関係性が見えにくく、他の支援者からの助言が得にくいところがあります。事例検討会を開催することで、困っていることを語ることで整理し、できていることが労われ、アイデアをもらえる機会は、支援向上のみならず、利用者、ご家族にも良い効果をもたらします。ですが近年、多機関が参加する事例検討会は個人情報の保護の観点から開催が減少している現状があります。
アウトリーチを大切にする仲間が集う本大会で、ぜひ事例検討をしてほしいという多くの声を受け、訪問医療部会では、会員限定で事例検討会を企画しました。
今回は、病院のアウトリーチチームに事例を提示いただきます。助言者として、長年地域で支援をされておられ、ACT全国ネットワークを先頭に立って牽引してこられた伊藤順一郎さんと高木俊介さんをお招きし、お二人ならではの着眼、展開のアイデアをライブで聴かせていただきます。
地域で実際に活動されている皆様、医療ではない他分野の皆様、会員であればどんな方でもご参加いただけます。訪問を始めたばかりや地域医療に関心のある方もぜひご参加ください。事例を深く知り、できることを発見し、参加者全てが前向きになれる事例検討会を目指します。資料は当日回収し、個人情報の保護の配慮をいたします。
一緒により良い支援を考えましょう。
「ひきこもり」が社会問題化して久しい今日、ひきこもりの長期化などにより、親子共に高齢化し、支援につながらないまま孤立する、「8050問題」がクローズアップされている。親が現役を退き年金生活に移行することで収入が減り、介護問題が生じるなどして経済的にも行き詰るケースも少なくない。
また、親の死後においても、子が誰にも頼ることなく餓死や病死する、いわゆる「ひきこもり死」の報告が全国で顕在化するなど、その深刻な実態が浮き彫りとなっている。支援導入が難しい当事者の「声なきSOS」をいかに受け止めるのか?
本分科会では、貧困、虐待、DV、精神疾患等、社会的孤立に係る問題に射程を広げつつ、「多職種連携によるアウトリーチ」を切り口に、その在り方を考える。
私たちの活動の中の一つに、ストレングスモデルを用いて、困難を抱えたご本人の生活が少しでも楽しく、望む生活に近づくように、ご本人とそこに関わる人たちと一緒に、ストレングスアセスメントと個別リカバリー計画の作成をする、というものがあります。
私たちが、このストレングスモデルを使用する理由は、このモデルで大切にしている、人の前提や実践の哲学が、私たちの会の趣旨に合致しているためです。具体的には、人は、自分が好きなこと、上手くできること、自分にとって意味のあることをする傾向がある、逆に、楽しむことができないものや、得意でないものを避けようとする傾向がある、という前提、そして、支援を提供する人たちに対する見方や、関係のあり方、その人をよく知ること等が実践の哲学としてあげられています。
普段はご本人の参加のもと行っている笑抱の会ですが、2時間という限られた時間ですので、Q-ACTの長村祐臣さんと前原善泰さんに、困難を抱えたご本人役と支援者役としてご協力いただきます。笑抱の会を“少しだけ”体験していただければ幸いです。
【会の流れ】
自己紹介→笑抱の会が大切にしていること→ご本人役と支援者役との交流→グループワーク(ストレングスの整理→見つけたストレングスの発表→個別リカバリー計画の作成→計画の発表)→まとめ
【こんな方々に参加していただきたいです!】
皆様と笑顔と抱擁の気持ちにあふれた時間を過ごせることを楽しみにしています!
近年、精神障がい当事者などメンタルヘルスの支援ニーズがある人、社会的孤立状態にある人、そのリスクのある人々に対してアウトリーチ支援が拡がってきました。アウトリーチ支援を行う仲間が増えることは大変喜ばしく、素晴らしい実践も展開されるようになりました。また、利用者数も年々増加しており、支援ニーズも多様化し、期待される役割は拡大しています。
アウトリーチ支援が拡がりをみせる一方、支配的・強制的・管理的なアウトリーチや、利益追求を最優先にしたアウトリーチ、本人主体や人権を軽視したアウトリーチなどによる、傷つきやトラウマ体験によって、さらなる孤立を深めてしまう方の声を耳にするようにもなりました。
そこで本企画では、3名のアウトリーチユーザーや家族に、ご自身の経験を自由に語っていただき、支援への期待、課題を学び、真に求められるアウトリーチのあり方とはどのようなものか、皆さまと一緒に考える時間になればと思っています。
当事者・家族と一緒に質の高いアウトリーチ支援の普及をともに目指しましょう。
我が国のメンタルヘルスに係る状況は未だ多くの課題を有しており、先の障害者権利条約の対日審査では権利擁護や差別解消の一層の推進が求められています。
当協会では多様な人々が暮らす共生社会の実現のため、人権・権利擁護に関する協会としてのスタンスを明確化するべくワーキンググループを立ち上げ議論を始めています。
「人権が尊重される地域・社会をどう作るか」、アウトリーチを標榜する団体として強制治療の対案も含めた自分たちなりの答えを出していきたいと考えています。
このシンポジウムでは、日本弁護士連合会(日弁連)から八尋光秀さんをお招きし、日弁連の「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」や「強制医療廃止のロードマップ」などについてお話しいただき、その後、熊本大学の矢原隆行さんをファシリテーターに八尋さん、人権・権利擁護ワーキンググループメンバー、聴衆ふくめ、「アウトリーチへの期待」をテーマに対話を行います。
多くの人にとっては普段あまり意識することがない「人権」に関する課題を通じて、自分たちが当たり前と考えて行っていることを見つめ直し、今後につながる対話の機会としたいと考えます。